上梓【2000.02.14】
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Words, words, words
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自己愛の断片(後)
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彼女の心の奥を信じている、という気持ち。そこに僕の愛が込められている。ふと、自尊心が湧き上がる。ピエロ! 別の自分が言う「ピエロにこそ真の愛がある!」と。
そんなに簡単に一度愛した女性を忘れられるか? ぼくはピエロかもしれないけれど、<女性の言葉は解し難い>ということは本当だと思っている。ピエロならとことんピエロでいいではないか。愛は自尊心とは何の関係もないのだから・・・。
これからだったのに!! これから二人が真の意味でお互いを知る恋愛の過程へ入って行くべきだったのに!! 今は、お互いがお互いを見つめ直す時期ではないのか! 彼女の心が、ぼくが信じている彼女の心なら、僕はなんの不安も感ずる要なしなんだ。彼女はそんな世間にざらにいるような多情な女なんかじゃ決してない! そして、もし彼女が心ある知性の持ち主であるならば、そして知性ある情(ココロ)の持ち主であるならば、ぼくのあの手紙の真の意味を解ってくれる筈だ。今は、二人の真の愛のあり方を追い求める時期!! 精神を、感情を、集中したまえ。
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ぼくは一生自分の孤独を凝視し続けてゆかなければならないかもしれない。しかし、僕は本当にそのように思っているのだろうか? 人は孤独に生きられるのか? いや、生きられない、としたら・・・どのように人は生きて行くのか? 何が孤独を優しく包んでくれるのだろうか。知か?美か?それとも愛か? ぼくはまた、
自分一人
を懐かしがっている。ぼくは自分の孤独を意識したときは、どうしようもなく、人との接触が煩わしく感じるらしい。
嗚呼、ぼくの虚無感よ。常に人に異和を感じてしまう自分とは一体なんだ?! ぼくの孤独は、その奥の寂寥は、誰にも解りはしない。解って貰おうとも思わない。それを大切に持つことにより、ぼくはぼくの人間関係を築いてゆこう。
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<ひどく汗をかいているね・・・>ぼくがこの言葉を発する前に、前を歩いている彼女の動きがぼくに何か話しかけたそうな感じに思われたので、自然とそんな言葉が口から出てしまったのかも知れなかった。
返事はなかった。彼女がどのように反応を示したか、観察するほど充分、ぼくは大人ではなく、小説家でもなく、心の狭い女に相対する初心な男であった。寧ろ彼女の方が落ち着いていたようだ。畜生! ぼくは彼女を追い越して先へ歩いて行った。
実際、彼女はひどく汗をかいていた。背中の一部分が汗でびっしょり濡れていた。しかし、更に彼女に言葉をかけることは自己の何かが許さない! もし彼女のぼくに対する気持ちに真実な面があるのなら、彼女の方からそんな素振りを見せなければならない。
しかし不思議だ! あんなにヒステリックで刺々しいものを持っているのに、表面はどうしてそんなに女らしく振る舞えるのだ。とても洗練されているように見えるところがあって、それが障壁のようにぼくの前に立ち塞がっている。しかし、そんなものはぶち壊してやる。人間としての本当の良さは、そんな外面には無いのだ。ぼくはやはり彼女 が好きだ。だから、そんな外面は破壊してやる。
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府立図書館で彼女を見た。彼女はぼくの後ろ姿を見たかも知れない。地下鉄の駅で再び彼女を見た。ぼくは車内。彼女はプラットホームで文庫本を読んでいた。きっと、一つ前の電車に彼女は乗ったのだ。それでは、どうして、乗りもしないで本を読んでいたのか?・・・ちょっとした謎。
どうして愛にピリピリした緊張が必要なんだ!
そんな愛はぼくは信じないね
あなたとぼくの間にあっては――
ぼくは苦しんでいる
あなたの、見かけでない真実の愛を信じているからだ
あなたも苦しまなければならない
ぼくはあなたのイメージを殺し得ないでいるからだ
ぼくはぼくの自己愛を捨てよう、だから
あなたもあなたの自己愛を捨てたまえ!
そして 二人は初めて一つの可能性の前に立ったのだ
愛において、<出会い>こそ大事
二人で共通に為すことこそ大切
そこでは二つの個体は消え
一つの共同の幻想が根づくのだから
愛は二つから生みだされた一つのイメージを
抱え込むことにより膨らんでゆくのだから
あなたはまだあなた自身を受け容れていないようだ
受け容れ方が問題、 とあなたは言うかもしれない
そうだ、ぼくはぼく自身をある程度受け容れるようになった だから
その分だけぼくは、ぼくで為さねばならぬことがある
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府立図書館へ戻る。ロッカーの所に彼女がいた。顔を見合わせて、どちらも「あぁ」と小さな声を出しただけだった。
小旅行に出る前は、一緒に勉強しないかと誘いの手紙を出そうか等という気持ちが確かにあった。しかしぼくはとうとうそれを実行できずに旅に出た。
気持ちはかなり冷えてしまっている。どうも駄目だ。どうも、彼女のあのプリプリと怒った顔が目に浮かんでくる。あのような態度は正にぼくに何らかの感情を抱いている故の、我が儘で子供っぽい女性心理の現れだと、一応知性がぼくに納得させようとするが、どうも駄目だ。
彼女が信じられなくなってしまった。或いは、ぼくのプライドがそうさせるのか。ぼくを思う何らかの心があるのなら、いや、あったとしても、あんなにプリプリとやられては、何もかも崩れていってしまう。 今日、ぼくは「彼女をお前の意識から切り捨てろ!」という声を聞いた。
彼女はまた言うかもしれないじゃないか! 例えば、「失礼ね。私があなたの気をひいたことがありますか? もし客観的にみてそうならば、私は責められるべきです。でも、もしそうでなければ、非常識ね!」と。
「彼女 は決してそんな女性じゃない! 根は優いのだ。その優しさを素直に出せないだけなのだ」とぼくの知性が言う。
「しかし、愛は知性では考えられないものだ。愛は感情に訴えるものだ。ピリピリしていて、安らぎも温かさも優しさもないところに、何が愛だ。愛においては感性的なものこそ大切なのだ」とぼくの感性が言う。
今日のことからも確実に言えることは、ぼくの彼女に対する心は冷えてしまっている。今日遭ったとき、ぼくの心の動揺はあまりなかった。不思議なことに。
ここにぼくの何がある? 今は、どうでもいい気持ちだ。
彼女が、ぼくとの関係において、彼女の優しさを出せる可能性があるか、ということが大事なのだ。或いはまた、ぼくが彼女との関係において――。しばらくの間、自分の心を自由にしてやろうと思う。
= = = §◆ 約1ヶ月経過 ◆§ = = =
彼女の後ろ姿に惹かれた。後ろから見た彼女の姿にはぼくを惹きつけるに充分なるものがあった。昨年の心が甦ってくるのを感じた。
しかし、がしかしだ。昨日もそうだったけれど、不思議だ、実に不思議だ、向こう側のホームに立っていた彼女の顔(何の表情も示さなかった)には、以前には感じられた魅力が全然現れていなかった。その顔は、あの時のヒステリックな顔や、あの劇の意地悪婆さんの顔に通じるものであった。もうダメだな・・・とその時思ってしまった。
相手の愛を喚び起こせなかったぼくの愛。不幸な愛。そうだったんだ。 まず、ぼくの愛に相手の愛を喚起する力がなかったことを素直に認めよう。しかし、ぼくはどんなに相手の女性を好きだと思っても、世の通俗的な技術とやらは絶対に行使しないだろう。おそらく気持ちをそのままぶつけるだろう。それで、相手がぼくを理解しようと努めないならば、それはぼくへの愛がない証拠なんだから、僕はそんな女性は相手にしないだろう。
彼女はぼくに対して好意を持っていたのかどうか(一緒に勉強しようというところまで行っていたのだから、しかし、そんなことはどうでもい いや!)は知らない。もし何らかの愛があったならば、あんなひどい仕打ちは取らないだろう、と思う。いや、ぼくはあのような態度に出るような女性は好まないのだ。
あたたかみもなし、ふくらみもなし。ただ少し洗練された言葉を使う、それだけの人だ。
もうこれからは、スッキリと行こう。ただの、単なる、学友として。
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友に会った。色々と話は出たが、自分が厭になった。どうして女性呪詛めいた言葉を吐いたのか。いい気なもんだ。愛の破綻は、彼女にもぼくにもいけない所があったからなのだ。それだけではないか。彼女の個性とぼくの個性の合体には無理な
なにか
があったからではないのか。彼女の個人史における経験の蓄積とぼくにおけるそれとが火花を散らしたが、その火花がお互いを越えるだけのエネルギーを発揮し得なかったと見るべきなんだ。彼女だけを責めたって始まらない。またぼくだけを責めても仕方がないことなのだ。彼女とぼく、一つのペアととして見た場合における内部構造がお互いを幸福にし得るものであるかどうかが問題なのだ。
不幸な意識を持った者が不幸な状況の中でめぐり会った。だからこそお互いを高める方向に進むべき筈の関係が、そうとは成らずにこんな結果になってしまった。その何かとは何であるか。まだよく解らない。これは考えてみるに値する問題を内包している筈だ。
今日彼から批判された。実は、先日の合宿の時、ぼくは一人の学友の問いかけを無視したのだ。ぼくが歌った詩の内容を教えて欲しいと いう要求をぼくは拒否する結果になってしまった。こういう事は人間関係において決していいことではない。自分がもし反対の立場だったとしたら・・・。彼だったら侮辱されたと感じるらしい。その気持ちはよく解る。ぼくだって。しかし、それに答えることは、自分として何か照れ臭いし、その詩の中に自分の苦しかったいろんな感情が込められてあるので、実は厭だったんだ。しかし、それならそうとハッキリその理由を述べるべきだったのだ。或いは、そんな歌をうたうべきではなかったのだ。しかしぼくはぼくなりに応対したようにも思う。確かぼくは、あの詩の成立した過程を少しは話したように思う。曖昧にではあったが・・・。
彼はぼくの冷淡さ、無関心さを責める訳だが、・・・一瞬、絶句してしまったぼくにはそれなりの意味もまたあるものだ。そこを読みとるのが文学者の眼というものではないのか。それが出来なければ、書物を読む意味がないのではないか。
ぼくもそんな時、侮辱された気持ちになるかもしれないが、それは、相手の置かれている状況をぼくがどれだけ認識しているか、その程度に逆比例すると思う。
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今日の彼女は憎らしくはなかった。あの髪型もそんなに気にならなかった。不思議だ。実に不思議だ。
精神を揺すぶらなければならない。高揚させねばならない。常にパトスを満たしていなければならない!!
四時を少し過ぎた頃、F1教室での出来事。
彼女がぼくより先に来ていたのだ。置かれてあった革袋から、そうではないかなという予感は持っていたが・・・。しばらくして、彼女は戻ってきた。視線が会って、「久しぶりです」という彼女の声。そしてすぐ出て行った。トイレかどこかへ行ったのかもしれない。何が久しぶりだ! 君は昨日の授業に出ていて、ぼくの姿を見ているじゃないか。 彼女にとって一日にも満たない時間が久しぶりという感じにあたるのだ。バカも休み休みに言え!と言いたい。
帰り、向かい側のホームに彼女は友達と一緒にやってきた。ぼくに気付いていた筈だ。先日のような憎らしさはその時の彼女の顔からは感じられなかった。視線が会っていたら、会釈するだけの心は充分ぼくにはあったのだが。すぐに彼女の方に電車がやってきた。ほんの30〜40秒位の出来事であった。
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図書館に彼女はいたが、視線は合わなかった。
帰り、向かい側のホームに彼女がいた。すぐ電車が入ってきた。後をつけて来ているようで、自分がイヤな感じだ。 勿論、偶然なのだが・・・。彼女はぼくに気付いたかどうか・・・。
今日図書館で
『嵐が丘』
に関するレポートを書き上げた。おそらく12枚程度の長さであろう。スッキリした気分だ。これからは彼女に対してもスッキリした態度で接してゆこう。
彼女が完全にぼくを見捨ててしまっているのならば、ぼくの悲しみがまた少し増えた、という程度ではないか!! もしそうだったとしても、彼女はぼくの個人史から永遠に消えることはない。昨年の一年は苦悩の中での苦闘であった。<戦い抜いたのだ!!>と言う限り、彼女は美しく輝いているのだ。
ヘアトンと小キャサリンのような、相互的な<優しさとしての愛>・・・・・
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昨日、恩師を訪ねたが、何となく寂しい感じであった。もうアジテイションめいた強い言葉は聞けないだろうという感じを受けた。少しさみしく感じるのは自分の主体が確立していない証拠だ。道は自分自身の力で切り開いて行かなければならない。容易では決してないのだ。それ故にこそ、生き甲斐もあるのではないか!! そうだ!人生、正にその意気だ!!
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一人でさみしい、とは決して言うな!
人生は苦しい、とも決して言うな!
まず、為すべきことを為せ!
<愛>を求めて
寂リョウが歩いてゆく
そのあとをオレの影が
重そうについてゆく
風が吹いている
石ころが飛び散っている
<影>は揺れている
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――どうだった?
と言葉が出そうになったところを
ぐいと抑えるオレの片意地
憎らしいオレの心よ
片意地にはオレの真実があるのだが・・・また
それを壊せば可能性も開ける
ところで やはりオレはそれを壊せないで
やっぱりオレの真実を取り戻す
アイツはすごくオレに魅力的になる
オレはアイツのために気が狂いそうになる
と思うと、アイツがひどく憎らしくなる
アイツはオレの愛を弾き玉のように弄んでいるのか!
どうして消えてしまわない!!
オレの前から永遠に遠くの方へ・・・
しかしオレは追って行くかもしれない
オレの真実をオマエの胸の奥深くへ
貫き通してみせるために
オマエはオレのこの苦しい愛を
この振動を
オレの生存の存在証明としての愛を
このオレ自身の全体を
全体としてのオレの心を
オマエだけに向かっているオレの真実を
さあ! オマエは応えるんだ!!
オレをこんなに苦しめて優しそうな顔をしてみせる
憎らしいオマエ!
オレ以外には誰もオマエを愛し得ない
オレとの間においてこそオマエは真にオマエとなり得る
オレの世界で最も憎らしいオマエよ!
応えるんだ!
応えるんだ!
小さな声でいいから
オレだけに判る言葉で
――山は動かなければ、わたしが動くわ・・・
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階段の所で、パッタリと出くわす。ぼくは上ろうとする。彼女は下りてくる。彼女の方が少し早かったのかもしれない。彼女の方がぼくより声は少し大きく、ハッキリしていた。
「こんにちは!」 それだけであったが、彼女の顔の表情には硬いものは全く感じなかった。その後、ぼくの心はひどく弾んだ。何故か嬉しかった。<なんだ!男のくせに情けない奴!>という声も聞こえたが、それを打ち消すほどの強さで、何かあたたかい感情が少しの甘美さを伴いながら、ぼくの心を襲ってきた。
それから彼女と一緒の次の講座に出席するまでは、心は暗かった。凝っと考え込むような感じであった。しかし、その間のぼくは、彼女を愛しているのだ、ということを改めて強く実感していた。
その講座での今日の彼女には以前に見られなかった陽気さが感ぜられた。隣の席の人に話している彼女の口調とか、表情、身体の動き、等からそれを感じた。
レコードの三幕一場のハムレットの独白が終わった後、彼女を一瞥した。彼女の瞳は少し潤んでいたように思った。これはぼくの勘違いかもしれない。しかし彼女、あの独白 を聴いて、何故か感動していたように思う。
最近の彼女には、以前とは違った美しさが感じられる。どうもうまく言葉で表現できないが、綺麗だ、本当に綺麗だ。精神的な美しさは顔の表情に出てくるものだ。
『嵐が丘』の読後感を十二枚書き上げたが、あれが契機となって、ぼくの心も何か吹っ切れた感じだ。これからは、何とかして、二人の一致する道を探してゆきたい。彼女も、5月以来、非常に苦しんできた筈だ。二人の苦しみに見合う喜びを、やはり、二人の力で創り出してゆかなければならない。
不思議だ!
ぼくにこんなに力が湧いてくるとは――
不思議だ!
ぼくの前に、こんなにも光が輝いているとは――
不思議だ!
君が、あんなに美しく こんなに激しく
ぼくに迫ってくるとは――
彼女はどうして「こんにちは!」と言ったのか。ぼくは「こんばんは!」と言ったのに。六時頃であった。六時の挨拶は彼女にとっては「こんにちは!」となるらしい。いや、ぼくの方がおかしいのか・・・。
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嗚呼、この感情をどう表現しようか!
もっと素直になって、彼女に話しかけるべきだ。彼女がそうしてこない以上は――。やはり男の方から行くべきだ。一昨夜の授業での彼女の顔が浮かんでくる。自己の感情に忠実になることだ。彼女になら、いや、ぼくは彼女がぼくに好意以上のものを持っていると信じているから、こんなふうに自分に言っているのだ。それがぼくの錯覚であるとしても、いいではないか!! 自分の感情に忠実にならなければいけない。
一昨夜の彼女。瞳は確かに潤んでいた――。
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今日は寝過ごして仕事は休んだ。初めての欠勤だ。
この月曜日からぼくの精神状態は非常に不安定になっている。彼女が原因だ。精神的に非常に疲れている。苦しい。人生とはこんなにも苦しいことの連続なのか、と思ってしまう。
今、テネシー・ウィリアムズの『欲望という名の電車』を読んでいるが、後20頁位で読み終える。ブランチの気持ちがよく解る。人間とは実に哀しい存在だ。ミッチとどうして結ばれないのだ!! あのスタンレーの奴! しかし、ぼくの心の中にはスタンレーの気持ちを受け取れる部分がある。だが、それにしても、ぼくはブランチの孤独な心情、やるせなく、どうしようもなく、歯ぎしりだけではおさまらないような、哀しく、弱い、純粋な心情の方により強く惹かれる。自分の中で、それら二つをいかに調和させてゆくか? これは大切な問題を孕んでいる。
彼女に言葉をかけてみたい。しかし、うまくそれが出来ない。苛立ち!! 精神の不安・・・ 彼女、彼女、彼女に葛藤。
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変に肩を尖らせることはあるまい
無言からは冷たい無関心も放射するものだ
人間的な仄かな光線は
閉ざされることの方が多いのだから
まず言葉を発すること
・・・ Speak what you feel ・・・
相手の生存をまさぐり
自分の生存の香りを豊かにするために
世の中にはいろんな言葉があるが
確かに、そう、確実に存在するのだ
人間という生命がある限り
キラキラと輝く生命である限り
やさしい言葉が!
生存の悲しみを
真綿のようにくるみ込んでくれる
やわらかな言葉が!
君は投げてみなければならない
見事な玻璃の橋へ向けて
Speak what you feel
あの人の心の中へ!
君の心の中へ戻ってくるように
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図書館を出ようとしていたとき、彼女が井原さんと一緒に入ってきた。井原さんがぼくに話しかけてきた。彼女は離れていた。ぼくを避けるような感じがあったが、それ程強いものではなかった。視線が合ったとき、お互いに会釈を交わした。例の亡霊の衣装のことで、井原さんが話しかけてきたのだ。その時ぼくは、以前のように彼女に無関心な態度を装うことはしなかった。ぼくは彼女の方へも視線を向けた。そうしたら、彼女も話してきた。お互いに冷たいものはなかったように思う。また、どちらにもそんなにギコチナサはなかったように思う。最後に、先週の授業に彼女が出てこなかったことについて彼女に訊いてみた。それは私的な話だが、ごく自然に彼女はぼくに言葉を返してくれた。
二人の間は無事だったのだ。ぼくは彼女を必要な存在と感じている。ぼくの愛はすべて彼女に向かう愛。彼女の愛もすべてぼくに向かわなければならない。そして、ぼくは彼女を理解しなければならない。ぼくを彼女に理解して貰わなければならない。二人の交差交合する新しい「時」が流れ出したのだ !!
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彼女は図書館にいた。通路で彼女と出くわした。ぼくは立ち止まって彼女に道を譲った。「アッ、スミマセン」と彼女は言った。頬の緊張がほぐれ、優しい感じであった。
しばらく後で、先週の授業のプリントを手渡してやった。どうもありがとう、と言ってすぐ受け取ってくれた。30〜40分して、彼女はそのプリントを返しに来た。その時の彼女にもギコチナサは全く感じられなかった。性急になることはない。二人の愛を小川の細流のようにチロチロと育ててゆけばいいんだ。
君のいろんなことが知りたい
ぼくのいろんなことも知って欲しい
相互理解・相互啓発・相互献身・相互信頼
<優しさ>と<厳しさ>を
<相互的な愛>で統一しよう
二人の力で築いてゆこう
二人の橋を
玻璃の橋を
二人の未来へ向かう
生活の逞しい場を
人間として心の触れ合う中で
生活の苦しみや厳しさを
二人の人間的な成長に転化できる
素晴らしい二人の愛の巣を!
そして類としての人間のささやかな役割を果たそう
一日一日の生活のリズムの中で
生きる歓びを分かち合おう
二人の心が通い合う
あの玻璃の橋を
二人して支え合ってゆこう
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今日の彼女は、黒のスウェターに薄い柿色のパンタロン。とてもチャーミングだった。常に控え目で、絶対出しゃばったりはしない、そして何かを考えているような落ち着きがある。彼女には以前のようなカタサはなくなっている。
ぼくの気持ちは先日のプリントのことで通じている筈だ。あとは、ぼくのイニシャチブだけが望まれているだけだ。ぼくはもう、どうしようもなく彼女に魅せられてしまった。
= = = §◆ 三週間後 ◆§ = = =
自分の資質が、いろんな意味でよく解ったような気がする。
ぼくの精神を立て直すのに一役かってくれた女性。
そして、幻滅の悲哀をたっぷり味あわせてくれた女性。
そんな女性のためにぼくは祈ろう
彼女の未来に幸福の到来することを――
こんな自分のためにぼくは祈ろう
逞しくそして颯爽と生きて行くことを――
.......... most loving mere folly;
Then hey-ho, the holly,
This life is most jolly.
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しかし、ぼくの心を、今でもやはり、縛り、魅する女性。
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図書館で『玻璃の橋』を手渡す。
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・・・私には読むことはできません。・・・
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