上梓【2000.02.11】
§◆§Words, words, words§◆§
== 自己愛の断片(詩) ==


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 あなたはぼくの前で輝く甘い棘 或いは
 苦い海の上にたゆたう真紅の花びら
 痛い玻璃の崖の下で出遭った
 飢餓のように痩せこけ
 追っかけられる鴇のような
 相貌を帯びた晩春の時の流れの淵で
 苦しい叫び声を強く抑え
 香りのいい優しさを求めた
 あなたの背後で
 あなたの不毛な青春が騒ぎ
 ぼくの背後で
 ぼくの意識の歯車はギシギシと音を立てていた

 ――青春の取り換えっこしませんか?
 ――あの、・・・いえ、・・・そんなつもりじゃなかったの

 大気は透明に凍結し
 鳥は突然!
 空中でピンで止められ
 しばらく藻掻いたあと
 ずり落ちてきた

 見える?
 見えるんじゃない!
 ・・・ぼくは何も見ていなかった

 みえないから
 みえるんだ!
 みえないから
 生は迷路にみえるんだ!

 ぼくは未熟な大工職人のような手つきで
 せっせとぼくの檻をこさえた

 きかない
 ききたくないんだ!
 しらない
 しりたくないんだ!
 みない
 みたくはないんだ!

 みることの畏怖(コワサ)をみないために
 檻を作らなければならなかった

 籠の中の二羽の小鳥達のように
 生きることの原点をつかむために
 ぼくはぼくの檻を作り続けた

 人は
 一人では
 ひとかけらの命すら生きられない

 青春の取り換えっこしませんか
 時間を共有にしませんか
 創り上げてゆきたいのです
 生きて行きたいのです




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 愛の言葉にはそれに相応しい外装が要るのだろうか?
 周囲の雰囲気によってその力が増減するのだろうか?
 窮境の中の愛は有閑の中の愛より劣るのだろうか?

 長い長い冬の厳しさの中で徐々に蓄えられた精力(エネルギー)が
 早春の薄い光に包まれて新芽となる―
 そのように 実に自然にぼくの心の中から湧き出た言葉だったのに・・・
 撥ね返された心の痛手は癒やされなければならないのに・・・

 硬直しきった棘を防ぐ憎悪を強く圧し殺し
 幻滅の悲哀を深く沈めながら
 喜劇役者の三流の役どころを演じたのも
 愛にはきっと
 真剣な優しさと献身的な美しさがあるに違いないからだ

 愛の言葉に飾りは要らない!
 単純素朴な優しさだけがあればよい!



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 毎日同じ事の繰り返し
 同じように働き 同じように勉強し
 同じように帰ってくる・・・
 同じ同じ同じ、同じ!ことの繰り返し

 何か変わったことはないか?!
 この鬱屈をぶっつける対象が!
 Oh! Smothered in this peaceful looking coil.

 ぼくに与えよ
 一点に集中するすごい魅力を
 鋭い精神力を
 そして 何はともあれ まず初めに
 少女の愛らしい微笑みを!



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 今日のあなたは美しかった
 優しさがあなたのすべてを包んでいた
 あなたの瞳には月の女神(ダイアナ)の冷たさは無かったけれど
 一人の男を無視しているような・・・
 他の男に注がれていた
 めらめらと沸き上がる炎を恥ずかしさで強く圧し殺し
 あなたの美しさと優しさを今もなお信じている
 自分の心の脈打つのを明らかに感じていた
 あなたは嘲笑するだろうか?
 あなたは完全に無視するだろうか?
 もっと非人間的な心でもって
 それでもぼくは観客の笑いを引き出す喜劇役者を引き受けた
 今日のあなたはとても美しかったものだから
 ――この優しい花をあなたの黒髪に飾ってあげよう
 面と向かってこのように ごく自然に言えたら
 どんなに素晴らしいことだろう・・・



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 シェイクスピア ソネット・第三十番


 When to the sessions of sweet silent thought,
 I summon up remembrance of things past,
 I sigh the lack of many a thing I sought,
 And with old woes new wail my dear times' waste:
 Then can I drown an eye(unus'd to flow)
 For precious friends hid in death's dateless night,
 And weep afresh love's long-since cancell'd woe,
 And moan th'expense of many a vanish'd sigh.
 Then can I grieve at grievances foregone,
 And heavily from woe to woe tell o'er
 The sad account of fore-bemoaned moan,
 Which I new pay, as if not paid before.
   But if the while I think on thee(dear friend)
   All losses are restor'd, and sorrows end.


 一人で静かに考えごとに耽っている時に、
 今までにあったことを思い浮かべれば、
 私はかつて色々なものを求めて失敗したことで溜め息をつき、
 時間を無駄に費すことになった古い悲しみを新たに嘆く。
 又、死の暗闇の中に姿を消した何人かの大切な友達の為に
 (普通は涙など流さない)眼を泣き腫らし、
 余り前のことなので忘れてしまっていた恋愛の辛さを再び味わい、
 今はもう地上にいない人々が眼前に戻って来る。
 私は昔の苦い経験をもう一度繰り返し、
 悲しみから悲しみへと、前に嘆いたことを
 もう一度嘆きながら数えて行って、
 既にすんだ勘定を改めて支払わされる。
 併しその時、君のことを思えば(愛する君よ)、
 凡ての損失は償われ、悲しみは消える。  (吉田健一 訳)



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 あなたの言葉は時としてぼくに鋭く響く。
 そんな時、妻に頭の上がらない夫(リップヴァンウィンクル)のように悲しく身をすくめ
 湧き上がってくるあなたとぼくに対する憎しみと闘いながら
 消えて行く自己の姿を必死の思いで掴もうとして
 掴み得ない焦燥の中にぼくは在る。
 あなたはぼくのこの胸の内をおそらく知らない。
 ぼくもまた、あなたの心の中を本当は知らない。
 お互いがお互いを理解しょうとする姿勢を崩す時、
 愛は真に愛足り得るか?
 憎しみは真に憎しみたり得るか?
 無関心という鋭いあなたの矢がぼくの胸を刺す。
 それはぼくの矢であるかどうかも知らないでぼくは苦しむ。
 苦しみと悲しみから愛は憎しみの花を散らし、
 その中であなたは美しく輝く、冬の月光のように。



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 ☆ 逞しく ☆

 浮つく足をしっかりと大地に降ろし
 観念は浮遊させ
 自分を常に離さないで
 言葉をそこから汲み上げ
 常に自分を離さないで
 沈黙を寧ろ固持し
 浮つく足で大地を踏みつけ
 現実の限界性から観念を抽出し
 自己を守り続ける中で
 真の自己を発見する
 心の窓を開け放し
 いつも新鮮な柔らかな風を入れながら
 今ココニ在ルトイウコトヲヨク自覚シテ
 君は逞しく生き続ける!



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 ☆ 泣いたり笑ったり ☆

 自分を取り戻そう!
 人間としての自分を
 泣いたり笑ったり
 感じがすぐ言葉となって現れる
 遠い遠い昔、何処かに置き忘れてあるに違いない

 表情に大人の悲哀が混ざっている、それがぼく!
 昨年まで想ってもみなかったウェイター、それがぼく!
 仕事のない時パチンコで時間を空費する、それがぼく!
 いつも人の後をのこのこついて行く、それがぼく!
 棒切れの言葉しか吐けないで黙ってしまう、それがぼく!
 人生にキョロ目を動かしている、それがぼく!
 女性の心を掴めないでまごついている、それがぼく!
 電車内で美しい顔を物色する、それがぼく!
 どのようなカップルにも常に羨望と嫉妬と憧憬と反撥の気持ちを
  投げつけて一人歩いて行く、それがぼく!
 友達との議論の最中でもはみ出して、一人ぽつねんとしている
  自分に突如ハッとする、それがぼく!
 親のスネカジリでグウタラな奴、それがぼく!

 そんなぼくかも知れないけれど、
 泣いたり笑ったり、
 そんな豊かな感情を持った人間でありたいと願っている、
 それもぼく!



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 さぶは叫ばない男だった
 さぶは栄二の影だ
 二人の統一に真の人間があると思うが
 さぶはさぶに徹することで立派な人間となっている
 愚鈍で馬鹿と言われても
 ――おらぁ、栄二兄いと違っていつも愚図なんだ・・・
 さぶはさぶを失うことはない
 真の意味で人間愛をさぶは血肉化している
 女性は栄二の凛々しさに惹かれて
 さぶの優しさ、愛における献身性を見ないのか
 人は”さぶ”に支えられて”栄二”たり得る
 人間の秘密を何も知らない、知ろうとしないのか?
 噫、そんな女性であってくれるな!
 ぼくが惚れた娘(ヒト)よ!
 ぼくはあなたに嘲笑されようと、なんだろうと
 三流の道化役を演じ続けようとしている
 ぼくは自尊心を羞恥の薄いオブラートに包んで、呑み込んだ
 ぼくは悲哀を帯びたピエロ!
 恋の油差し!
 人生に優しい花を咲かせたく意気込む
 可笑しな一人者!



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 ☆ 赤鼻のピエロ ☆

 ぼくはあなたを冬の月光に喩えたりはしない!
 余りにも冷たすぎる悪魔のキラメキだからだ
 あなたはそう喩えるには子供っぽすぎる
 底意地の悪い大人の悪意は無いのだから
 確かにあなたの鋭利の矢はぼくの胸を貫いた
 あなたの矢は、しかし、玩具のように滑稽だ
 観念に障害を持った恋人達のように
 意気込みだけは激しかった!
 ――あなたはぼくのこの気持ちが解るだろうか・・・
 ぼくは道化役を買って出た
 あなたの精神(ココロ)の硬直性(コワバリ)を解きほぐし
 あなたの内部に抑えられて眠っている筈の
 あなたの優しさをぼくとの関係において取り戻して欲しいと
 柄にもない犠牲羊(スケイプゴート)よろしく
 ぼくは鼻を赤く染めたのだった!



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 窓から微笑む優しい顔!
 月光に照らされた窓じゃない!
 都会の喧噪の中を突っ走るスポーツカーのように
 一瞬の内に通り過ぎていった!
 ぼくの心に遠い遠い 淡い憧憬がよぎる

 幻影の少女よ
 その淡い蕾に触れたくて
 ぼくの想いはどれほど乳牛のいる
 草原を駆け巡ったことか・・・
 小高い丘から転げ落ち
 草いきれのむんむんする中で
 どれほどぼくは見知らぬ秘密の花園から
 白い雲のような優しさが立ち昇るのを願ったことか

 通り過ぎて行く!
 通り過ぎて行く!
 何もかもが意味を求めて意味を捨てて行く
 おゝ、ぼくたちの生は飛び散るチリのように
 意味のない喧騒ばかりだ
 何故ぼくたちは落ち着けないのか!
 何故ぼくたちは苛立ちを腐臭させるのか!
 何故ぼくたちは今在ることに素直でないのか!
 意味あるものは意味をなさず
 意味ないものに意味を探す
 空しさと、それを埋めようとするエネルギー

 疑問、疑問、疑問・・・
 疑問の洪水 がぼくを襲う
 意味を求める人に対する疑問
 意味を求めない人に対する疑問
 こんなことを書き連ねている自分に対する疑問
 意識の亀裂から瞬時キラメク光線!
 観念の肉体に対する酷使
 肉体の観念に対する反逆
 観念の切れ目を包み込もうとする肉体の切れ目
 崩れた鋼鉄のように荒涼とした世界
 唯一の優しさ、安息のオアシス!

 人間は感覚を大切にしなければならない
 人間は信念を大切にしなければならない
 感性と理性がほどよく調和した人間!



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 ☆ 君の人生を狙撃せよ! ☆

 決して敬虔な気持ちなんかじゃない!
 絶対者の前で静かに両手を合わすのじゃない!
 そんな自己忘却、自己献身なんかじゃないんだ

 確実に自己を凝視めている
 全面的に自己欲求を許している
 確実に自己を相対化している
 人生の鏡の前で変に肩を尖らせていない
 また変に肩を竦めていない
 時の流れに自己を奪われていない
 諦観でもない
 虚無でもない
 不条理でもない
 無関心でもない

 常に人生に照準を定めている不動の心――

 沈黙の意志
 意志の意識化
 生の意欲
 無意味な生から人生の意味性へ
 意味の人生から生の虚無性へ
 馳せ昇りまた馳せ下る
 そして君は意欲的な生を意識化し
 そこから生じる意志を沈黙させ
 豊かな沈黙の中で
 君は生きる!
 君は生きる!

 恥ずることなく驕ることなく
 君自身の人生をしっかりと握りしめ
 焦慮ることなく急ぐことなく
 君は君の人生を狙い撃ちする
 すごい集中力で!



=  =  = §◆§ =  =  =


 ぼくの人生の同志よ!
 良き伴侶よ!
 少女のような新鮮な微笑で
 ぼくの疲れた心に気活を吹き入れ
 強靱なる意志の力を
 与えて欲しい!

 ぼくの恋人よ!
 ぼくの妻よ!
 ぼくたち庶民の生活は常に闘いの中にある
 だから ぼくたちはお互いに
 お互いをいたわりあい励ましあい
 苦難の波が強ければ強いほど ぼくたちは
 二人の共同の交流の橋を確かめあい
 夕暮れには 夕陽の優しい愛でお互いをくるみあい
 早朝には 朝陽の輝かしい希望でお互いを進めて行こう

 ぼくのこの世で唯一の友 そして
 生活の中でこそ素晴らしいぼくの恋人よ
 ぼくと一緒に歩いてください
 あなたと一緒に歩いて行きます




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