上梓【2010.02.10】
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RIPENESS OF A PERSIMMON
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誕生の真相
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梵信
今回、烏有先生の英語の短編小説をホームページに載せることにしたよ。先生は若い頃、英語で小説を書いたことがあると言っていたよね。心理描写の所など、難しい構文を使っていて、理解するのに時間がかかってしまった。
みのり
先生は詩人なんだよね。英国の詩人、シェリーやキーツの話をよく聞いたよ。卒論のテーマはシェリーだったそうだ。若い頃の先生は小説家を志しておられたそうだが、いろんな事情でそれが果たせず、戦後は僕たちの工業高校の英語教師として、そしてESSの顧問として僕たちを導いてくれたという訳だ。
梵信
そうだね、目立つことを極力嫌われた。烏有にもそれが表れている。常に縁の下の力持ちという生き方を貫かれたという感じだね。ところで、「歓楽尽きて哀情生ず」という言葉を先生から聞いた覚えがあるんだが、"sadness after the fulness of joy"と表現すればいいんだね。それを見たときは、非常に懐かしい感情に包まれる思いだった。
みのり
僕も聞いたことがあるよ。先生が高知の高校で過ごされた日々の話をしていた時だったかな。
梵信
ああ!あの鏡川の詩だろう。君の『心のさざ波・心の渦』に出てたじゃない。先生が高知を離れる時に創った詩、正にその感情で充ち満ちているね。輝きと歓びに満ち溢れる5月をこよなく愛する主人公、みどりの心の奥に潜む悲しみの比喩として使っておられる。
みのり
そうだね。それだけでなく、先生は主人公の心理を克明に描写している。先生の小説では柿の実の成熟という小説のタイトルが、主人公の心の成長を描く中に充分に生かされている。先生は拙い僕の英文小説をあのように、纏まりのある小説に創り直してくださった。というか、僕の原案を基に先生が新しく創作した、というところかな。
梵信
ということは、君の『柿の葉』がその基になったという訳か。
みのり
そうだとも言えるし、そうじゃないとも言える。『柿の葉』は十数年後に創り直したものなんだ。最初は『柿の実』としていて、英文に直した時のタイトルは「柿の実の成熟」として書き上げ、先生に診て貰ったところ、朱で真っ赤になって返ってきたんだ。タイトルが本文の中に生きていない、と批評された。 慥かに未熟なものだったよ。それで自信をなくして、長い間、放ったらかしていたんだ。しかし僕はみどりが毛虫と闘う場面は描きたかった。その描写が拙くて、先生には伝わらなかったようだ。
梵信
『柿の葉』にはそれが描かれているね。先生の英文小説とは大分違ったものとなっている。そもそも何故君が、その基となった『柿の実』という小説を書くに至ったんだね。
みのり
僕が理系の大学を退学し、文系の大学を目指して受験勉強していた頃、柿のまだ青い実が落ちる音を聞き、ドキッとしたことがあった。その体験が基となっている。その時、こんな詩を創ったよ。
風は吹いてはいないのに/ポトリ!…/と鈍い音たてた
柿の実 柿の実/悲しの実/これから何処へ/行くのです…
つゆさめ つゆさめ/つれなくふるな
柿の実/頑(カタ)い顔をして/凝(ジ)っと何かに耐えている
柿の実/柿の実/悲しの実という言葉も入れてみたかったんだ。それが成功したかどうか、その判断は読んでくださる方に任せるしかない。あの世にいる先生が読めば、英文同様に朱が(少しであって欲しいけど…)入るだろうとは思うけど…。
梵信
解った。それじゃ、朱で真っ赤に訂正された君の英文小説も載せることにする、いいよね。
みのり
お好きなように。
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五合庵烏有著 "RIPENESS OF A PERSIMMON"
柿本実稚著 "朱で真っ赤になっている様"
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