【上梓 2014.11.10】

大阪城落城の淀君
 元和元年 五月雨の 晴れ間短き 葦の葉に
 吹く風さえも 生臭く 鬨(トキ)をつくって 攻め寄せる
 五十五万の 敵勢に 難攻不落を誇りたる
 城も櫓も 支えかね 傾く月に 影暗く
 今宵 名残りか 大阪城

ご注進 ご注進 天王寺地区の味方は総崩れ 勝に誇った敵勢は 西(?)いし大手口へとひた押しに 押し寄せましてござりまするー  笹(ササ)の丸目がけて一挙に攻めかかり 戌亥(イヌイ)の砦は 危のうりますござりまする 何とぞ 城中よりのご加勢をー 味方の 味方の総大将  真田幸村殿 昌万院(ショウマンイン)門前で 討ち死になされましたー

さながら櫛の歯を引く如く 朱(アケ)に染まって駆け付ける砦砦の忠臣侍(チュウシンジ) 大阪城はたちまち修羅の地獄

みなの者 立ち騒ぐでない 静かにしやれ この淀や 千姫が起き伏しする奥殿 めったに矢も討ちかけぬ 鉄砲も届きはせぬ それにしても  千姫はいずれへ参ったのじゃ はよう千姫を連れてまいれ  おぅ 千姫 そなた いずれへまいっておりゃったのじゃ さては この淀の目をかすめ 逃げるつもりでおりゃったのじゃな  えーえ 申うされな そなたは寄せ手の大将 徳川秀忠の娘 家康殿にとっては 正しく孫じゃ それに 家康殿は そなたをこの城中より救い出そうため  忍びの者を入れておるとか そなたさえ取り戻せば 後はこの城中へ 矢も 鉄砲も思いのまま その時にはあの古狸(フルダヌキ)め 定めし 赤い舌を出して  喜ぶことであろう それ故わらわは そなたを離さぬのじゃ 近こう寄りゃ えーもそっと近こう寄りゃと言うに

お情けないそのお言葉 父君や 爺(ジジ)君が どのようなことをいたしましょうとも 千は 母君様や 我が君(キミ)様のお傍を 決して 離れは致しませぬ

そりゃ真実か さては この淀を 油断さそうための 空言ではあるまいのう 若しも この淀の目をかすめ 逃げようものなら これ これじゃ この 守り刀で一刺しじゃぞえ

あれ

逃げるか 逃げようとて逃がしはせぬぞ

ほーれ危ない

道犬 邪魔立て致すな

いいや成りませぬ 千姫君を切りたてますれば 和議の手づるを 我とわが手で断ち切るも同じ事 淀殿いか様に申されようとも わが君秀頼公の後見職 この 道犬が 許しませぬ

道犬 明日にも落城と決まったこの大阪方 和議とは何事 寄せ手の軍門に 兜を脱ぐとでもお言いやるか

いーや 降参するのでは御座りませぬ 和議と申すは予の儀にあらず これ ここにござる 千姫君の

おうわかった 千姫君を 徳川方に 渡せと言うのであろう

いいや 渡すのではありませぬ 和議の 使者に立って頂きまするのじゃ 千姫君は 家康殿にとっては正しく孫娘 孫の 可愛さはまた格別

成らぬ 成りませぬ 一時(イットキ)の和議に事寄せ姫を奪い取り あらためて 豊臣方を皆殺しにせんとする 家康殿の心のうち

いや 左様なご疑念がござるとらば ここしばらく 淀殿ご自身 関東に ご下向あそばされては

なに わらわを 関東へ

左様 それさえご承知くだされば わが君秀頼公には 大和一国を与えるとの 家康殿よりの内々の御(オン)沙汰 今の場合(バワイ) わが君秀頼公を  戦火の内より御救い申し上げる手立てとしては これも ただ一つかと 心得まする

道犬 まこと我子(ワコ)秀頼を いや 秀頼公を お救い申し上げることが出来ると申すか

年甲斐もなくこの大野道犬 ?いすく?僧偽りは申しませぬ 淀君様関東ご下向(ゲコウ)と決まれば 及ばずながら老後の思い出 この大野道犬 身にかえて  御奉公?なつかまつります

かねてより 家康の内命を受け 大阪城の明け渡しを企む大野道犬 言葉巧みに持ちかけます 淀君様も流石に 我が子秀頼の助命と聞いて 思わずひと膝  乗り出す その時 表の方より声あって

しばらく しばらく 淀君様 関東ご下向かないませぬぞ

淀君様の前に両手をつかえましたのは 大阪城の重責と言われた 木村長門守の母 宮内の局(ツボネ)であります

恐れながら 我が君様ご好運拙(ツタナ)く 落城も旦夕(タンセキ)に迫る今の場合 和議や降伏はご門の恥 何とぞ お方様にも 潔い御覚悟のほどを 願わしゅう御座いまする

これはしたり 宮内の卿のお局には 戦(イクサ)騒ぎにとりのぼせ ご乱心なされたものと見ゆるわい

お黙りなされ ご乱心はそなた様じゃ 大阪方の執権職 重い役目にありながら 徳川方と気脈を通じ 己(オノ)が立身出世とこの大阪城を取り替えんとする稀代(キダイ)の痴(シ)れ者  獅子身中の虫とはそなたのことじゃ ええい この上の容赦は成りませぬ 道犬 覚悟

うっ うーん

かない そちゃ そちゃ 道犬を手にかけて

お騒ぎ下さりますな ご重役を手にかけたのも お家の為 この上は お方様にも ?たちたさ 何とぞ 潔いお覚悟を

 死すべき時に死せざれば 死するに勝る恥辱とか
 真田幸村はじめとし 名将あまた討ち死にの
 捨てておいても落ちいる城に 敵方最後の使者として
 我が君様は御国替え 淀君様は人質に
 東(アズマ)へ下しまいらせとは あの手でゆかずばこの手でと
 裏に裏ある家康の 腹の底には気が付かず
 一度ならいで二度三度 またもその手にやすやすと
 のりたもうとは 何事ぞ 忘れられしか越前の
 城の煙りともろともに お果て成された御母も
 お市の方の ご最後を 汚したもうか太閤の
 一世(イッセ)の誉(ホマレ)勲(イサオシ)を 傷つけたもうか 労(イタワ)しいや

淀君様 及ばずながら きよみちのつゆはらいは この くだいが努めまする

 ?いほう終わらず道犬を 刺した刀を取り直し 我とわが手で乳の下

うっ

 命に代えて 身に代えて 武門の誉 守ることを
 戦国妻の 運命(サダメ)ぞと 声ほそぼそと 血しぶきに
 濡れた袂(タモト)の ?ほ〜 袖 濡らす

 命短き夏の夜も はや明け染めて 雄叫びの
 轟きわたる中空に 雲かとまごう?はかたじん?もど

淀君様に申しあげまする ただ今 ささの丸におきまして 我が君秀頼公 御生害(ゴショウガイ)に御座りまするー

なに わこが わこ秀頼が

はぁ ?おまぎの使者も 敵方一時(イチジ)の方便と判り 姫様には 最後の御覚悟をあそばされ それで あれを御覧なされませ あの火のてこそ  我が君最後のお知らせ 我等も?めいだ?っとも 御免

まぁ こりゃ ?まっちゃん せめて せめて 君様の最後の模様を聞かせてたもれ 定めし ご立派であったであろうのう

はは 恐れながら 御本丸は 父君太閤殿下の 御偉業の御(オン)形見と思召(オボシメ)され 血で汚すの恐れありとの仰せにて 御近習(ゴキンジュ)召し連れて  お出ましになられましたが お庭先より 天守櫓を仰ぎ 最後の名残りを惜しまれる御有様(オンアリサマ) 近習(キンジュ)の我等 思わず鎧(ヨロイ)の袖に  涙いたして御座りまする

天守櫓 最後の 名残りをのう

母君様にも今生の御暇乞い 是非にも 御対面あそばす儀なれども

さては わらわの歎き思(オボ)し召し 君様には 最後の名残りさえいたされぬとの 御道理じゃ 御道理じゃ わこ生害(ショウガイ)と聞かばこの母は  何としてでも とめたであろう

 淀の桜や 聚楽(ジュラク)の梅に 一世の栄華は誇れども
 何故か寂しく遣る瀬無き わらわも虚ろなこの胸に
 何時か萌え出た喜びは わこ秀頼を 産みまいらせ
 母と 呼ばれて幾(イク)春秋 愛し我子ゆえ 君ゆえに
 捨てる 命も 捨てかねて 未練 我執に生きながらえ
 恥を 忍んで 人質に なると言うたも 親ごころ
 わこ生害と 聞くうえは 富も 位も 権勢も
 玉も 黄金(コガネ)も 如何にせん 許してくりゃれ くだいの局
 今は この世に 名残りなく そなたに すがる この淀の
 死出のたびじぃの 道あない

たれか たれか 千姫の供をして 姫をおとしまいらせる者は?いやなのか

母君様 我が君秀頼公のご生害をよそに 落ち延びよとはお情け無い なにとど わらわも 母君様の御(オン)供を

ならぬ そなたを今が今まで 我等が傍に引き止めおいたのも わこ 秀頼の為 そなたは一時(イットキ)もはよう 父君や 爺君のもとへ戻らねばなりませぬ  これが この戦いの世に 女に課せられた 宿命なのじゃ

 まだ七歳の まきぃのすえ 母君様と諸共に
 叔父のぶながの 陣営に 使者に立ったる その後で
 悲しや 父の長政は 小谷の城の 露と消え
 越えて 天正十一年 賤ヶ岳(シズガタケ)なる 合戦は
 北国勢に 利あらずして またも母君 お市の方は
 わらわが 二度めの父と呼ぶ 勝家公と 諸共に
 城を枕に果てたまい それに涙の乾く間もなく
 落ちた あの時と 場所は違えど 変りなき今のそなたの
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父君を失い 二度目は 母君と別れ こたびは 愛しのわこに 城とともに果てるのは どうやら わらわの 運命(サダメ)であろう

母君様

流れ弾に気をつけてのう 千姫 さらばじゃ

母君 おさらばでござりまする

 帰る姫の?おしおかに じっと見送る淀の方
 あれこそ三十四年前 ?あしちおこちしはなつがた
 せめて 行く手に幸あれと 祈る折しも 荒れ狂う
 人馬の 犇(ヒシ)めき 鬨の声 どっと寄せ来る敵勢に
 今日を名残りの命ぞと かねて覚悟の兵(ツワモノ)が
 城を枕に 奮い立ち 血潮で守る 大阪城

 ?こうしゅうゆらには淀の方 栄華の夢も 五十年
 儚く消えて 雄叫びに 心澄ませば 現世(ウツシヨ)の
 迷いの雲も 晴れ渡り 燃ゆる炎も 涅槃の園か
 これぞ 難攻不落の城



【 == You Tube にアップされている浪曲「大阪城落城の淀君」より台本起こしました == 】