上梓【2009.6.13】
 | あとがき |  |
(二)
- これで、青年期の私の「心の劇」にやっと終幕をおろすことができ、ホッとした気持ちでいる。
書き始めた時は、大学を退学するところまでのつもりであった。そこまでを書き終えて一冊の本にした。が、その後のことが気にかかっていた。これでは前半の山場が終っただけであるにすぎないという、何となくすっきりしないものを感じていたからである。それで、その後少しずつ書き継いでいくことにした。
古いノートを読み返しながら、なんとまあ同じようなことをくだくだと書き綴ってあることか、と厭になったこともあったが、当時の私は、自分の心の悩みや葛藤を書き出すことで、心の安定を得ているような毎日であった。そのことを思い返してみて、現在の意識で厭だと思える箇所も当時としては自分にとって意味があったのだと思い直し、できるかぎり二十代前半の頃の自分の意識に戻ろうと努めた。これは、私の古いノートを公開するのではない、私の心の劇を書こうとしているのだと思い、適当に取捨選択をした。私だけにしか解らないと想える箇所は、若干説明を付け加えた。書いてある内容を変更したい誘惑に駆られるところが何箇所かあったが、全体として当時の文章を尊重し、書き直さないことを方針とした。稚拙な文章は修正し、文体に気を配ったことは言うまでもない。
こうして書き継いでいく中で、徐々に後半の山場が視えてきた。そして、最後の山と思えるところまでを書き終えた今、当時の私を苦しめていた感情をすべて書き出すことができたという思いでいる。
だからどうなんだ、と問われても、それには何とも答えようがない。しかし、私としては、あの当時の自己の姿を、特に内面の心の姿を、主観的には描き出すことができて、内心ホッとした思いでいる。
1994年9月27日
柿本実稚
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