上梓【2010.05.16】
Il y a longtemps que je …
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6 月
- 1982年6月1日(火) 晴。
- Tate Gallery へ。ターナーのコレクションがある。コンスタブルも多く。サザーランドという現代画家の展示。彼の写真。Lambeth Bridge を渡り、テムズ河に沿って歩いて行く。Jubilee Gardens で軽食。楽団が演奏している。丁度昼の休み時なので大勢の人々が芝生に座ったり寝そべってくつろいでいた。
Foyles で Gissing に関する研究書を4冊買う。合計40ポンド25ペンス。同じ書物でも値札が違っていた。4~5ポンド程安くなった筈。
84 Charing Cross Road は現在工事中。すぐ近くの劇場では同名のタイトルの演劇が上演されていた。観に行くつもりでいる。しかし書物にかなり出血したので、もう1万円両替しないと――。
Horse Guards の前の広場では(6時半~7時半)衛兵の儀式が行なわれていた。特にこの日は特別なのかも知れない。
- 6月2日(水) 晴、午後曇、稲光!
- Jubilee Gardens で昼食(3時過ぎ迄)。時々俄雨。芝生の中のステージでは、今日は3人が楽器を弾き歌っていた。その後 Lambeth 地区の外を回り、Vauxhall Bridge を渡って帰る。橋を渡ってしばらくした頃、急に大粒の雨が落ちてきた。ケンタッキーで夕食を買い、5時半頃帰宅。
今夜はパブには行かず、クリスティの "Curtain" を読了。
- 6月3日(木) 晴後薄曇。
- 今日はよく歩いた。テムズに沿って進む。Tower Bridge を通り、London Tower 前の河岸で昼食。ロンドン市街区はデカイ建物が多い、高層ビル街。かつての世界経済の心臓部、今もなお脈打つが如く――。Barbican Center にロイヤル・シェイクスピア・カンパニーが移ったのは最近のことだろう。丁度昼の休み時。老若紳士がパブでビールをひっかけながら話している。地図で道を確認していると、50歳位の紳士が肩ごしに地図を覗き込み、親切に教えてくれる。こういうことはパリで経験することがない、英国紳士道のひとつなのだろうか。Foyles で "Of Human Bondage" を買い、Ambassadar 劇場で土曜日の5時の予約を取る。National Portrait Gallery に閉館(5時)前に入り、30分程ブロンテ姉妹の肖像画などを観る。Victoria Appollo で明日の夜の予約。
夜、"Of Human Bondage" を読んでいて眠ったらしく、目が覚めると真夜中。今宵はパブに行けなかった。
- 6月4日(金) 快晴。hot and humid. 発信:絵葉書(神谷君、松村さん、山口さん)
- 大英博物館。1時間位で出る。Tottenham Court Road 沿いの小公園のベンチに座って昼食。その後絵葉書を書く。3時頃。Foyles に寄り、やはり "Born In Exile" (£9.95) を買うことにした。帰って風呂に入り、Appolo Victoria へ "The Sound of Music" を観に行く。7時半~10時半。ミュージカル劇としては結構楽しめる内容であったが、物語の展開や心理的な動きに絡む愛の表現では映画には適わないと感じさせるものであった。
今日は非常に蒸し暑かった。風呂に入り出かけたこともあって、汗が終始額から滲み出ていた。昨夜のようにウトウトと眠ってしまうよりは有意義な夜の過ごし方だったと言える。帰りパブに寄り、a pint of lagar を注文。11時15分前に鐘を鳴らしていたが、あれは何の意味か?。閉店の何分か前に鳴らすことになっているのか。5分前に店を出る。
- 6月5日(土) 晴。
- ハイド・パークで読書。午後5時より7時迄、Ambassadars 劇場で Hellen Hanff の書簡集を演劇化した "84, Charing Cross Road" を観る。観客は女性が圧倒的に多く、それも50~60歳位の婦人が多かったようだ。Ambassadars は比較的小さな劇場、stall の後列だったが顔の表情はよく観えた。舞台に向って左手がヘレン・ハンフのニューヨークの書斎兼仕事場、右手がチェアリング・クロス・ロード84番地の古本屋の内部、その境界は判然としない。空間的には大西洋があるのだが、書物がその距離を縮め繋げていると考えることが出来る。味わい深い劇であった。
初めて地下鉄に乗る。Leicester St. → Victoria St. 40ペンス。今9時。これからパブに行く。今夜髭を剃り落とすつもり。
- 6月6日(日) 曇、俄雨、時々晴れ間、雷。
- Batterseapark へ行くが、雨雲が現われ、俄雨に雷鳴。小降りになったので引き返す。Green Park で1時間半位読書。しかしまた雨が振り出した。4時頃ホテルに戻り、本を読む。途中風呂に入り、9時頃まで読書。パブへ出かける。10時過ぎに帰ってくる。出発の準備は完了。明朝、朝食後すぐに空港に向かう。
帰国すれば新しい生活との格闘が待っている。何かが終ったのだ。……そして新しく何かが始まろうとしている。これからは以前のような妙な不安感に苛まれることは恐らくないだろう――そうなってはいけないのだ!。思い起こせば、長い廻り道だったかもしれない。しかし、その廻り道は決して無駄ではなかったのだ。<自分>というこのような性格を持った者にとって、広い眼で見れば、必然的過程であった。その過程で僕は<自分>を過大評価も過小評価もしない、<自分>という者の真の姿を発見した筈だ。その<真実の自分>を向上させるものは何か?――努力以外にはない。今までの僕は、自分を過大評価する若さ特有の自意識が抑えられ、若し僕に何らかの才能があるとして、自分を過小評価する意識が常にその才能を壊すようにしか働かなかった、と言えるかも知れない。それも若さ特有の負の自意識であると言えるかも知れないが。
とはいえ、自分をいくら自惚れても、また嫌ってみても、自分という者はこういう自分でしかなかったのだ。この自分を生かすも殺すも、これから始まる新しい生活の中で、謙虚に努力を持続してゆけるかどうかにかかっている。
少年の頃の<負けん気>を新たに甦らせる必要を強く感じている。
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